私からさよならするよ

幸せなふたりだけど あなたも私もきっと
このままじゃどこにもいけないから
きっと泣くのは私のほうだけど
さよならするよ
だめね、私

夏の恋人 / SHISHAMO

梅田駅の近くにあるベーグル専門店に入り
ベーグルひとつとホットミルクを注文して
カウンター席に腰を掛けた
通り過ぎていく人たちを眺めながら、
みっちゃんの事を思い出した
少しだけ愛ある話でもしようかな

わたしとみっちゃんが出逢ったのは今年の三月だった。仕事は繁忙期を迎えていて、東京は人手不足だったから、大阪に所属していたみっちゃんが応援で助っ人として来てくれたのがきっかけ

みっちゃんは結婚していて、ふたりの子どもがいる。基本的には物静かで、好き嫌いがたくさんあって、覇気があまりなくて、静かに毒のある関西弁で喋るような人だった

初日からみっちゃんとふたりで仕事することになったけど、特に会話もしないで車の中はアクセル音とオールナイトニッポンのラジオ放送だけだった
そういう距離感を一週間くらい続いた

ある日の会社の飲み会をきっかけにみっちゃんと一気に不自然にいやらしく仲良くなった。始終ずっと仕事の話を真剣に話していたんだけど、話せば話すほど目と目が合う回数とか喋り方とか呼吸が合ってきたり、その度にわたしの体温が上がっていった。きっと、みっちゃんも同じだっただろう。

そこからほぼ毎日、みっちゃんが通っているウィークリーマンションに通うようになって、ベッドの上で見つめ合い 抱きしめ合い 触れ合い わたしの核心に迫るときだった
「わたしは傷付きたくないの」とそう言った

わたしに覆いかぶさってたみっちゃんは、ゆっくりとわたしの隣に座って煙草に火をつけた。わたしは続けて話す、
「こんな悪いこと、終わりが見えないままみっちゃんと居続けるのはいやよ。来月、大阪に戻ったら終わりよ。でもそれまでわたしもみっちゃんと向き合いたいし、知りたいと思ってもいるの。」「うん」「だから…大阪に戻るまでわたしを大切にできる?愛してくれる?そして春がきたら…」

みっちゃんは少し悲しそうな顔で
「分かってるよ」とわたしの耳元に囁いて
わたしを丸く包み込んだ 儚い夜だった

あれからみっちゃんは約束通り
わたしを愛し大事にしてくれた

危ないところには近づかせないし、
せっせと歩く割には時々わたしがちゃんと
ついてきてるかをチラッと後ろを見て
確認をしたり、
わたしの方が帰り遅くても待っててくれたり
毎晩、一緒に美味しいご飯を食べたり
ホワイトデーにホールサイズのアップルパイを買ってきてくれたり
「桜が見たいな」って言ったら、夜遅いのに電車に乗ってわざわざ上野公園まで行ったり
わたしがまだ一緒に居たくて「ひと駅分歩きたい」なんてわがままを言うと「ええよ」と言ってくれたり

なにもかもが愛だった

大阪に戻る日が刻々と迫っていく
みっちゃんはわたしにこんなことを言った

「小百合はな、俺にないものがあんねん
太陽みたいな存在なんやと思う、嘘ちゃうで?まだ若いし、これから先色々あるやろうけど変わらんで欲しい。
その笑顔大事にしいや?
俺は小百合の味方やで、お前が変わらへん限りな。俺は小百合の味方。ずっと笑って欲しいねん」

みっちゃんは東京最後の夜にそんな言葉を残して、大阪に帰っていった

夢のような一ヶ月間だった
人に恵まれているなといつも思う
優しい人が周りにたくさんいる

春が始まる

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