残ってる

改札はよそよそしい顔で
朝帰りを責められた気がした
私はゆうべの服のままで
浮かれたワンピースがまぶしい
風邪をひきそうな空
一夜にして 街は季節を越えたらしい

まだ あなたが残ってる からだの奥に残ってる
ここもここもどこかしこも あなただらけ
でも 忙しい朝が 連れて行っちゃうの
いかないで いかないで
いかないで いかないで
私まだ 昨日を生きていたい

残ってる / 吉澤嘉代子
よく電車で寝過ごしちゃうんだとそう言って
わたしを引き連れて
三鷹行きの総武線に乗り込んだ
あぁ、何度か味わったこの気持ち
そろそろ名前があってもいい気がする
その日はめずらしく
わたしの爪はバラ色で 浮かれていたのかも

きみはわたしの隣で安心して眠っていて
わたしは電車を乗り過ごさないように
電光掲示板を見つめていた
その時間がわたしにとって素敵なことで
この物語に終わりがあるのも
分かっていながら きみに恋したと思う

吉祥寺できみを起こしてホームに降りると
きみは少し下を向いて
「なんか悪いなぁ、やっぱり送るよ」
とそう言った
分かってたよ、そう言うと思った
呼吸で分かっちゃったんだ
最初っから眠っていなかったくらい
わたしはなんとなく期待していたんだ

折り返して千葉行きの電車に乗って
きみは起きていてくれた 甘い夜がまだ続く
そこできみはわたしの手を握って
ポケットに入れた

きみがわたしのことを
ほんの少し好きになったこと
好きなっちゃったことで
大事なひとのこともチラついて
胸が痛むことも 全部伝わっているよ
だからわたし 悪いことしてるみたいだね
ごめんね

新作のイチゴ味のチョコレートを
食べてるところを見られた次の日から
きみは同じものを買うようになって
「半分っこしよう」そう言ってくれたり
きみの変化に気付いてたのに
知らんぷりして そのまま誘導しちゃった
こういうことになるような結末に

叶いっこないんだけどね
嘘の優しさも愛も いらないよ
わたしの住む町に着いたら
この手も 振り払わなきゃね
ありがとね


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